パスピエが2017年にリリースしたアルバム『&DNA』の7曲目に収録されている「マイ・フィクション」は、軽快なポップサウンドに乗せて「やり直しのきかない自分の人生を生きる覚悟」を歌った楽曲です。
パスピエ『マイ・フィクション』とは?2017年アルバム『&DNA』の中核を担う楽曲
「マイ・フィクション」は、日本の音楽シーンにおいて独自の立ち位置を築き上げてきたポップロックバンド、パスピエの楽曲です。
2017年1月25日にリリースされた彼らの4枚目のフルアルバム『&DNA』の7曲目に収録されています。
ボーカル・大胡田なつきの紡ぐ独特の言語感覚と、キーボード・成田ハネダが構築する緻密かつキャッチーなメロディが、これでもかと詰め込まれた一曲です。
シングルカットされた楽曲ではないため、ミュージックビデオ(MV)などの映像作品は公式には制作されていません。
しかし、アルバム曲でありながらファンからの人気は非常に高く、パスピエの音楽性を語る上で決して外すことのできない「隠れた名曲」として愛され続けています。
当時のパスピエは、バンドとしての成熟期を迎えつつあり、初期のニューウェーブ感や和風テイストを残しつつも、よりスケールの大きなロックサウンドへと進化を遂げていた時期でした。
そんな過渡期とも言えるタイミングで発表された『&DNA』というアルバムは、彼らの音楽的な遺伝子(DNA)と、これから先の未来へ向けた新しいアプローチが交差する意欲作です。
その中で「マイ・フィクション」は、アルバムの中盤を支える非常に重要なピースとして機能しています。
以下に、楽曲の基本情報をHTMLの表形式で整理しました。
エンタメライターの私、結城が個人的に推したいポイントは、この曲が持つ「ポップなのにどこか切ない」というパスピエ特有の魔法が、最も純度高く結晶化している点です。
休日の午後にふと自分の人生を振り返りたくなったとき、この曲のイントロが流れるだけで、日常の風景が少しだけドラマチックに色づくような感覚を覚えます。
『マイ・フィクション』の歌詞の意味:現実という名の物語をどう生きるか
大胡田なつきが手掛ける歌詞は、常にリスナーの想像力を掻き立てる複雑な言葉遊びと、絵画のような情景描写が特徴です。
しかし、この「マイ・フィクション」においては、核となるメッセージが非常に力強く、そしてストレートに胸に突き刺さってきます。
楽曲のテーマは、ずばり「現実という名の、やり直しのきかないフィクション」です。
私たちは子どもの頃、おとぎ話や絵本の中の世界に憧れ、いつか自分もそんなファンタジックな物語の主人公になれるのではないかと夢想します。
しかし大人になるにつれ、現実は決して甘いものではなく、空想の世界へ逃げ込むことはできないという残酷な事実に直面します。

歌詞の中では、生まれてしまったその日から、人生には「テイク2」が存在しないことが歌われています。
映画やドラマの撮影であれば、失敗しても「カット」の声がかかり、何度でもやり直すことができるでしょう。
しかし、私たちの人生という舞台では、リハーサルなしのぶっつけ本番が死ぬまで続くのです。
この残酷な事実を前にしたとき、人は絶望するかもしれません。
ですが、大胡田なつきはここで終わらせません。
やり直しがきかないからこそ、この一度きりの現実を「自分だけの物語(=マイ・フィクション)」として愛し、必死に生きていこうという強い肯定のメッセージを放っているのです。
誰かが書いたシナリオ通りに動くのではなく、自分が主人公の物語を、自分自身の足で歩んでいく。
そんな泥臭くも美しい決意が、軽やかなメロディに乗せて歌われることで、重苦しくならず、聴く者の背中を優しく押してくれます。
「マイ・フィクション」というタイトル自体が、非常に秀逸なダブルミーニングになっています。
一つは、文字通り「私だけの虚構(物語)」という意味。
そしてもう一つは、厳しい現実世界そのものを「自分が主人公のフィクション作品」だと見立てることで、困難を乗り越えるための心の防具にする、というたくましいスタンスです。
私はこの曲を聴くたびに、「明日からの仕事、ちょっとしんどいな」と思っていた気持ちがフッと軽くなり、「よし、自分の人生という映画の、次のシーンを撮りに行こう」という前向きなエネルギーをもらっています。
サウンドの魅力:『&DNA』の中で際立つ、初期パスピエらしさと進化
「マイ・フィクション」のサウンド面についても、深く掘り下げていきましょう。
この楽曲は、成田ハネダの卓越したポップセンスと、バンドメンバー全員の高度な演奏技術が見事に融合した、アンサンブルの妙を堪能できる一曲です。
イントロから楽曲全体を軽快に引っ張るのは、跳ねるようなキーボードの音色です。
エレクトリックピアノ(エレピ)風の温かみがありつつも、どこか妖しげな響きを持つこのフレーズは、リスナーを一瞬にしてパスピエの魔法の世界へと引きずり込みます。
この感覚は、パスピエの初期の名曲である「トロイメライ」や「チャイナタウン」が持っていた、和風テイストやオリエンタルなポップさを強く彷彿とさせます。
インディーズ時代から彼らを追いかけているファンにとっては、「これぞパスピエ!」と膝を打ちたくなるような、懐かしくも新しいサウンドデザインなのです。
一方で、ギターのアプローチには彼らの確かな「進化」が感じられます。
AメロやBメロでは、ギターは極めて抑制されており、リズムを刻む裏方へと徹しています。
キーボードとボーカルのメロディラインを引き立たせるための、非常にストイックなプレイです。
しかし、間奏に突入した瞬間、突如としてハードでエモーショナルなギターソロが炸裂します。
この静と動のコントラスト、抑圧からの解放こそが、パスピエの楽曲が持つ圧倒的なカタルシスの正体です。
リズム隊(ベースとドラム)のグルーヴ感も特筆すべきポイントでしょう。
軽やかなポップソングでありながら、足元を支えるビートは非常に太く、ダンサブルです。
ヘッドホンでじっくり聴き込むと、ベースラインがまるで歌うように滑らかに動き回っていることに気がつくはずです。
成田ハネダという稀代のメロディメーカーが描く設計図を、メンバー全員が完璧に理解し、それぞれの持ち場で120%のパフォーマンスを発揮している。
「マイ・フィクション」は、そんなバンドとしての充実ぶりが手に取るようにわかる、音楽的にも非常に価値の高い一曲だと言えます。
ファンの反響とライブでの立ち位置:なぜこれほど愛されるのか
リリース当時の2017年、アルバム『&DNA』を聴いたファンの間で、「マイ・フィクション」は瞬く間に話題となりました。
前述したようにMVが存在しないアルバム曲でありながら、SNSや音楽レビューサイトでは、この曲の歌詞の深さやメロディの美しさを絶賛する声が相次ぎました。
「落ち込んだ時に聴くと、不思議と元気が出る」
「初期のパスピエの雰囲気が残っていて最高」
「人生を『Take2のないマイ・フィクション』と言い切るセンスに脱帽した」
こうしたファンの熱い反応は、この楽曲が持つメッセージが、多くの人々の心に深く刺さったことの証明です。

また、ライブパフォーマンスにおいても、「マイ・フィクション」は特別な輝きを放ちます。
アップテンポでダンサブルなビートは、ライブハウスのフロアを揺らすのに最適でありながら、同時に歌詞のメッセージ性が強いため、ただ盛り上がるだけでなく、観客一人ひとりが自分の人生と重ね合わせながら聴き入るような、独特の空気感を生み出します。
演奏頻度としては、毎回のツアーで必ずセットリストに入るような定番曲(いわゆるキラーチューン)というわけではありません。
しかし、だからこそ、ライブの中盤やアンコールなどで不意にこの曲のイントロが鳴り響いた瞬間、会場からは歓喜の声が上がります。
熱心なファンにとっては、「今日、この曲が聴けて本当に良かった」と思わせるような、ご褒美のようなポジションを確立しているのです。
私自身も、過去のライブでこの曲を生で体感した際、大胡田なつきの芯のある歌声と、バンドが放つ圧倒的な音の渦に包まれながら、胸が熱くなるのを感じた経験があります。
音源で聴くのとはまた違う、ライブならではの生々しいエネルギーが、「やり直しのきかない人生を生きろ」というメッセージをさらに強烈なものにしていました。
エンタメライター結城の考察:『&DNA』における「7曲目」の魔法
ここからは、エンタメライターとしての私の視点で、「マイ・フィクション」という楽曲の凄みについてさらに深く考察していきたいと思います。
私が最も注目しているのは、フルアルバム『&DNA』における「7曲目」という、この曲の絶妙な配置です。
アルバムという作品は、単なる曲の寄せ集めではなく、アーティストが意図を持って曲順を並べ、一つの大きな物語を構築するフォーマットです。
『&DNA』の前半戦は、リードトラックであり圧倒的な疾走感を持つ「メーデー」や、トリッキーな展開でリスナーを翻弄する「スーパーカー」など、エッジの効いた攻撃的な楽曲が立て続けに配置されています。
リスナーは、これらの楽曲が放つ強烈なエネルギーに圧倒されながら、一気にアルバムの世界へと引きずり込まれます。
そして、前半の熱気が最高潮に達したところで迎えるのが、中盤の入り口となる7曲目「マイ・フィクション」なのです。
ここでパスピエは、アルバムのテンションを決して落とすことなく、しかし明らかに手触りの違うアプローチを見せています。
前半のソリッドなロックサウンドから一転して、初期の彼らを思わせる軽快で人懐っこいポップさを提示することで、リスナーの耳を心地よくリセットさせるのです。
もし、この7曲目がバラードや重たいミディアムテンポの曲であったなら、アルバム全体の推進力はここで一度ストップしてしまったかもしれません。
逆に、前半と同じような攻撃的な曲が続いていれば、リスナーは聴き疲れを起こしてしまったでしょう。
「マイ・フィクション」は、ポップで耳馴染みが良いのに、リズムはダンサブルで推進力があり、なおかつ歌詞にはハッとさせられるような深いメッセージが込められている。
この完璧なバランス感があるからこそ、アルバム『&DNA』は中だるみすることなく、後半のドラマチックな展開へとスムーズにバトンを繋ぐことができるのです。
私は、この曲の配置に、成田ハネダをはじめとするパスピエのメンバーの「アルバムアーティストとしての矜持」を強く感じます。
彼らは単に良い曲を作るだけでなく、それをどう聴かせるかという「体験のデザイン」においても、極めて優れた感覚を持っているバンドなのです。
これまでの彼らのキャリアを俯瞰してみても、「マイ・フィクション」は非常に重要な転換点に位置する楽曲だと考えられます。
初期の「印象派のようなぼやけた美しさ」から、より輪郭のはっきりとした「等身大のメッセージ」へと表現の幅を広げていく過程で、この曲は間違いなく大きな役割を果たしました。
現実逃避としてのエンターテインメントではなく、厳しい現実を生き抜くための武器としての音楽。
パスピエが「マイ・フィクション」で鳴らしたその決意は、今を生きる私たちにとっても、最高の応援歌として響き続けています。
よくある質問
パスピエの『マイ・フィクション』にMVはありますか?
公式のミュージックビデオ(MV)は制作されていません。アルバム『&DNA』に収録されている楽曲のため、音源のみで楽しむ形となりますが、ファンの間では非常に人気の高い隠れた名曲です。
『マイ・フィクション』はライブで演奏されますか?
毎回のツアーで必ず演奏されるほどの定番曲ではありませんが、ここぞというタイミングでセットリストに組み込まれることがあります。ファンの間では、ライブで聴けると非常にテンションが上がる特別な曲として認知されています。
歌詞に込められた意味を一言でいうと?
「やり直しのきかない一度きりの現実(人生)を、自分だけの物語として前を向いて生きていこう」という強い肯定と決意のメッセージが込められています。
まとめ
今回は、パスピエが2017年に発表したアルバム『&DNA』に収録されている名曲、「マイ・フィクション」について深掘りしてきました。
跳ねるようなキーボードが牽引する初期パスピエらしいポップなサウンドと、大胡田なつきが紡ぐ「Take2のない人生を生き抜け」という真摯なメッセージ。
その二つが見事に融合したこの楽曲は、アルバムの中核を担うだけでなく、多くのリスナーの背中を押す力強いアンセムとして愛され続けています。
休日の時間を持て余している時や、日常のルーティンに少し疲れてしまった時、ぜひこの曲をイヤホンで再生してみてください。
きっと、あなたの目の前に広がる「現実」という名のフィクションが、少しだけ輝いて見えるはずです。


